事あるごとに嫌いだと言う。その度にお前は本当のことなんてお見通しだと言わんばかりに、知ってると嬉しそうに笑った。
事故があった。
誰もがお前の事を心配する中、お前はよく寝たとばかりに目を覚ます。
良かったと泣き笑いする家族を見て、お前はこてんと首を傾げた。
人の記憶は幾つかの種類に分かれるらしい。
だから箸の持ち方も電気の点け方も覚えてるのに、自分の名前も家族のことも覚えていなかった。
それでもすぐに打ち解けたのは生来の気質故か。
兄弟としてしか見られないことがこんなにも辛いことなんだと、改めて思い知らされる。
親しげに近づいてくるのに、困ったように逃げいていく。
辛くて、苦しくて、だから思い出して欲しくて、好きだと言った。
笑って私もだと言うお前は絶対に意味を分かっていなくて。
何度も何度も好きだと言った。
その度にお前は私も好きだよと笑った。
日に日に絶望が募る。
だから叫ぶ。
お前なんか大嫌いだと。
叫んで子供のように逃げ出した。
暗く大きな影が迫っていることにも気付かないで。
お前は泣きながら好きだと言った。
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