じぃっとこっちを見ている奴がいる。
黙りこくって何をするわけでもなく、ただこっちを見ている。
時折そっちに視線を向けると嬉しそうに笑ってみたりして。
その割には何かを言うわけでもなく。
ただぼけっと俺を見ているだけ。
別にこの場所を離れればいいだけだが、俺が席を立つ理由なんてない。
かといってこの状況を甘んじて受け入れらるわけでもない。
「・・・おい、なんのつもりだ」
いささか癪に障るものの、いい加減無言の視線に堪えられず声をかける。
が、返答はない。
何がしたいんだこいつは。
「うざったいからこっちを見るな。薄気味悪い」
そう言って窓の外に視線を移すと、後ろから小さな笑い声が漏れ聞こえてきた。
何かと思ってそいつを振り返ると、いやに幸せそうな顔で笑っていやがる。
ぎろりと睨んでも、そいつは淡い微笑を浮かべるばかりで埒が明かない。
無駄に構うのもいい加減馬鹿らしくなって、また外を見る。
「・・・なぁ、アメディストス」
今更な呼びかけに小さい溜息だけで応える。
「すまなかった。ただ」
ちらりと見るとそいつは切なげに、儚げに笑って言った。
「ただ、お前の声が聞きたかったんだ」
ブレイクタイム
「だったら最初からそう言えばいいだろうが」
「そんなことを言ったって、一体なんて言えばいいんだ?アメディストスの声が聞いていたいから何か喋ってくれ、とか?」
「無理だな」
「それに、私はお前の声を聞いていたかっただけだからな」
「あ?」
「会話がしたかったわけではない、という意味だよ」
「珍しいな」
「だから言っているじゃないか、アメディストスの声を聞いていたかったんだと。お前の声はいい声だから」
「・・・褒めても何も出ないぞ」
「お前の声が聞ければそれで十分だ」
「変なヤツ」
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