鳥が空を飛ぶのは、そう生まれたからだ。
狼が満月に吼えるのは、そう生まれたからだ。
つまり、私が人の上に立つのは、そう生まれたからに過ぎない。
もし私が平民の子に生まれたとして、果たしてその時私は人の上に立とうなどと思うだろうか。
いや、思う以前に、人の上に立つことなど出来たのだろうか。
・・・くだらない。実にくだらない。
そんな仮定の話をしたところで、私は雷神の眷属として、第一王位継承者としてここに生まれてきたのだから、それ以外の話をしたところで何の意味もない。
そう、何の意味もない。
この国も、民も、家臣も皆、私の物になることが決まっている。
それは私が生れ落ちたその瞬間に決まった揺るぎのない事実。
覆ることのない運命。
人は己の持ち得ないものにこそ憧れを抱くのだという。持っていないものを羨み、欲するのだと。
だからと言って、私は別に平民になりたいなどと思ったことはない。
王族として生まれ、敬われ、恐れられて扱われることが日常であり、それが私の正常である以上、そのことに対して別段不満など持つことはなかった。
そして恐らくこれからもそうだろう。
ならばこそ、私は私が生まれ持っている物に対して執着がない。
執着を示す理由が見つからない。
「殿下、東方防衛同盟の議会のことでお話があるのですが」
「・・・カストルか。そういえば、風の都の城壁はまだ出来ていないそうだな」
「その様に聞いておりますが、それが?」
「急がせろ。我らの方が奴隷に合わせてやる必要もなかろう」
「・・・仰せのままに」
空は青く、遠く、決してこの手に落ちることはない。
けれどその空を往く鳥を手にすることは容易いのだから、皮肉なものだ。
年を通して青々と緑が茂り、数多の花が色鮮やかに咲き誇る庭も、所詮は赤く染まった大地と地続きであるというのに、神聖も何もあるまい。
特別なことなど何もない、ただそう生まれついただけのこと。
王族に生まれようが、平民に生まれようが、奴隷に生まれようが、神に生まれようが同じ。
持たぬ物を欲し、持つ物を軽んじる。
ただ私には欲しい物がないだけのこと。
だから、そう、お前達が羨ましいよ兄弟。
執着に溺れ狂って、無様に神に抗ってくれ。そのための土台は私が用意しておいてやるから。
さぁ、心置きなく狂うがいいさ。
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