「オスカー!!!」
赤色のソファーに座った長い黒髪を一つに束ねた後姿に、走ってきた勢いのままダイブする。
首に腕を回し、頭をぐりぐりと押し付けていると、頭上から大きな溜息が聞こえ、次いで服の襟を強く引っ張られた。
「苦しいよっ!痛いよオスカー!」
ソファーの上に行儀悪く座り、頬を膨らませて抗議の声を上げれば切れ長のサファイアブルーの瞳に思い切り睨まれる。
それでも自分を見てもらえたことが嬉しくて頬が緩む。だらしなくにへにへと笑っていると、オスカーが持っていた分厚い本で頭を叩かれた。
少し痛かろうと嬉しさが勝って、顔の緩みは取れたりしない。
それを見て、オスカーはサファイアブルーの目を細め器用に片眉を上げると、持っていた本を広げ目を落とす。
経験上、これはもう静かに待っていても、多少のアクションを起こしても反応してもらえないことは分かっている。
それこそ、諸々の恐怖から泣きそうになりつつ本を取り上げたって無駄なのだ。
だがそれはそれ、こちらだとて学習能力というものがないわけではない。
笑顔が引っ込み、代りに出てきた憮然とした表情のままトテトテと窓へ近づいていく。
今いるのは2階の中庭に面した部屋。ちなみにテラスがあるのは隣の部屋で、ここには柵のついた窓はない。
極力音を立てないように注意を払いながら窓を開ける。開けた窓から緩々と入ってきた風がシルバーグリーンの髪を揺らした。
中庭には庭師が毎日丹精込めて世話をした花々が美しく咲き誇り、枝葉を伸ばした木々はまるで芸術品だ。
そんな風景をぼんやりと見るともなしに見ながら、窓枠に置いた手を外へと投げ出す。
身体全体がゆっくりと時間をかけて窓の外へ出ていく。
吹きつけるそよ風を身に受けながら、瞼を閉じる。
足が床から離れれば、全身が窓の外へ放り出されるのはあっと言う間だ。
それでもあの浮遊感は堪らない。あの感覚を思い出してにやけそうになる顔を必死に抑える。
つま先が床から離れる一瞬前、これまた襟首を掴まれて室内に引き摺り戻された。
しっかりと床に両足が着くと、少しだけ残念な気がしたけれど、オスカーに構ってもらえることの方が何倍も嬉しいので気にしないことにする。
服の襟から手が離され振り向くと、そこには憮然とした表情をした背の高い彼がいる。
黒色に薄緑で縁取られた服をきっちりと着た、端正な顔に無表情しか知らないような彼が。
嬉しくってまた笑うと、オスカーが額に拳を当てて溜息を吐いた。
「・・・お前には学習能力ってものがないのか?」
「学習しているからやるんじゃないか」
窓枠に腰掛け、両掌を向けて振ると、オスカーのサファイアブルーの瞳が一層冷たく細められる。
「現に今、こうしてオスカーは俺と話をしてくれる」
「・・・馬鹿らしい」
「馬鹿で十分だよ」
彼の瞳に呆れの色を見て、安心したら、また顔が笑っていた。
そんな私を見て、オスカーは踵を返してソファーへと向かう。
オスカーは赤いソファーの脇を通り越し、装飾の施された扉の前で止まった。
「それで?今日は一体何をするんだ?クイン」
少しだけ柔らかさを帯びた声音とその内容に、私は大急ぎでオスカーの元へと駆け出した。
その勢いのまま腰へ抱きつくと、オスカーは僅かに声を上げて、壁に肩を強かに打ちつけたけれど、まぁ気にしない。
きっとこの後、頭を叩かれて、額に青筋を立てた彼の顔を見ながら私はけたけたと笑うのだろう。
ああ、私は彼と過ごすこの時間が何よりも大好きだ。
何物にも代えがたい、私の・・・宝だ。
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オスカーって結構ありきたりな名前だよねー。
最初は多分もうちょっと違う名前だったような気がするんだけど、書こうとしたら忘れてた。
それにしても俺は首に腕を回す構図が好きらしい。それもソファー越し。
実はこれ、最初に書き上がった時、終わりのクインが病んでて書き直した。
全部書き上がって、サイトに載せた暁には、病みバージョンも置いてみようと思う。
それにしてもオスカーが掴み切れていない。無口なの?喋るの?どっちなの。
ついでにオスカーイメージを載せてみる。
自分の絵で描いて物凄く幻滅した・・・orz
もっとかっこいいんだオスカー!
表現できない自分涙目。
ちなみにクインも描いたけど、保存されてなかったというオチ。

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