「どうしてヘンゼルとグレーテルは老婆を殺してしまったんだろう」
自宅のリビングでソファに座り、のんびりと本を読んでいたレオンが唐突に言った。
誰に問うでもなく口にした疑問に、同じ空間にいたエレフが眉を潜める。
エレフはレオンが座っているのとは違うソファの背に、自分の背中を預けて床に胡坐をかいていた。
「魔女に殺されそうになったからなんじゃねーの」
「エレフは本当に魔女なんていると思うかい?」
やる気なくエレフが答えると、レオンが本から顔を上げて今度は確実にエレフに向けて問い掛ける。
エレフは呆れて投げやりに言う。
「子供向けの話に、んなリアリティー求めてどうすんだよ」
「そうかも知れないけど、童話や民話っていうのは現実的な問題を魔法などで隠して伝えている物語だろう?」
「桃太郎に出てくる鬼は外国人のことかも知れないみたいな話か?」
「そう、特に欧米にある童話っていうのは現実に即した元ネタがある例が多いんだよ」
「・・・あー、本当は怖い童話」
ふと思い出した本のタイトルを思わず呟くと、レオンがそうそうと反応した。
「ヘンゼルとグレーテルでは、老婆は別に魔女じゃなかったって話があるんだよ」
「あ?」
「つまり二人は裕福な老婆の家に辿り着いて、食に困らなくなったのに老婆を殺してしまうんだよ」
「そりゃ、いつ老婆の好意が終わるか怖かったからじゃねーの?折角無料で飯が食えるのに追い出さたかねーだろ」
「成る程、それもそうだね」
一人納得してまた本を読み始めたのか静かになったレオンとは逆に、エレフは紙パックのジュースのストローをしばらくガジガジ噛んでから口を開いた。
「俺的には」
「ん?」
「ヘンゼルとグレーテルで魔女が焼けた竈の大きさが気になんだけど」
「かまど?」
レオンが本から顔を上げて不思議そうに聞き返す。
足を伸ばし、ソファの背に体を押し付けて伸びをしながら、エレフはそう竈と答えた。
「だっておかしいだろ。いくら腰の曲がった婆さんでも、全身がすっぽり入ってなおかつ出てこられないってどんだけでかい竈なんだよ」
「んーでも、死んだのを確認しないで二人が逃げてしまえば老婆には追いつけないからいいんじゃない?」
「あー?普通竈なんざ入ったって上半身程度だろ?んで、慌てて逃げようとすんのみたら怖くねぇ?」
「だったらそこを撲殺すればいいじゃないか?」
「お前何気に物騒なことをサラッと言うな・・・」
あまり納得出来た訳ではないようだったが、エレフは溜息を吐きつつまたストローに口を吐けて中身を啜った。
しかし中身がなかったらしく、吸っても耳障りな音がするだけだった。
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